とにかく考えた、事・方法論を書くことにした。

最近は雑記ばかり。サーフィンと読んだ本に関して考えた事などを書いていきます。

黒後家蜘蛛の会シリーズの謎まとめ。日常の謎視点から評論

■はじめに〜本記事の趣旨説明と蜘蛛の会の紹介〜

黒後家蜘蛛の会。あるいは給仕ヘンリーシリーズとは、SF界で名を馳せたアイザックアシモフが、執筆した短編ミステリ集のことで、現在5冊刊行されている。1冊に10程度の短編がつまっており、実に読み応えがある。
さて、他の人が考えた様々な日常の謎(ちょっとした気になることを問題にしたミステリ)を体系的、かつ分類的に眺める事で、新しい創作の方向性等が見えてくるのではと思い、感想や評論をここにまとめることにする。



■まずの感想。

最初に断っておきたいのだが、蜘蛛の会を読むにあたり、以下の2点に注意が必要である。
・ストーリー性皆無。極端に言えば、こういう問題があった。みんなで考えてみないかのみ。
・英語、アメリカの教養や時代背景の理解が不可欠な問題が多め。


1点目は好みの問題という範疇だが、それにしても、これからあげる5つのアメリカの都市の中で真に東なのはどれか?といった、ただのクイズに近い短編もあり、小説じゃなくて、箇条書きでいいじゃんとさえ思ってしまうことがあった。
2点目は、非常に残念な事に、アメリカ人でないゆえに、あるいは、時代背景がわからないゆえに、ちっとも謎がとけない(考える事さえ難しい)問題も多く、スタートラインにすらたてない問題は楽しめなかった。


■趣旨への結論

以下に、ヘンリーシリーズの謎を個人的に分類する。

○軽微犯罪のミステリ

窃盗などの軽微犯罪を題材に、通常のミステリで問題提起される、誰が、どうやって、なぜ、いつ、という点を考える。謎の構成や解法は通常の殺人事件と同一。一発ネタのトリック・アイディアの披露。

○暗号解読系

純粋解読と特殊解読にわかれる。暗号解読にあたり、前者は広く一般的な知識があればとける問題である。例えば、金庫の鍵を空けるダイヤルの数字は、メモにかかれた3つの数字であってるはずなのに、開かない数字の謎。後者は英語、当時のアメリカ、文学作品等の知識が最低限必要とされる。※作中内の情報でも十分考えられるように配慮されているものの、時代や国籍が違うと、多分全然わからない。

○SFミステリ

例えば、二人のうち優れた日食写真とは?など。SF要素に絡めたミステリ。2番目や4番目に分類される作品もあり、SFミステリとして欄を設けないほうが問題性質分類上は正しいのだが、創作視点で見れば、ある特定ジャンルに関する出題という方法論も1つ参考になったので分けた。好きな人には醍醐味とたまらなさがあると思う。

○目的・一見意味不明の行動系

個人的には一番好きなやつ。日常の謎といわれるとこのくくりを指す事が多いように思う。



作品数は、(軽微犯罪)1:(暗号系)3:(SFミステリ)1:(不可解行動)1程度。暗号解読系が圧倒的に多く、言い換えればただのクイズで。さらに結構頻繁に、現代の日本人にはようわからんな作品も飛び出すので注意。



さて、何か創作(問題制作)の参考になるかと思いきや、意外に収穫は少なかった。それまでに漠然とイメージしていた分類であり、できれば、この分類枠を越えた謎もあるよ〜だとか、意味不明系の作品を見させてもらう中で、制作ノウハウみたいなのがみえてくれバナーと思っていたのだ。残念。ただ、SFミステリのような、読者を極端に選ぶものの、背景知識がある人には、凄いとうならせる3番目のSFミステリ手法は参考になった。



テストやクイズでも明白だが、好きな知ってるジャンルの問題の方が、面白く感じるし真剣に悩むという事。謎の面白さには、知っているけど思いつかなかった(盲点)と、よく練られた問題の知性への賛美が関わってくるからであるとおもう。


■謎まとめ

黒後家蜘蛛の会の各謎を列挙。タイトルの後ろの番号は個人的分類を適用。1、軽微。2、純粋解読。3、特殊解読。4、SFミステリ。5、不可解行動。

第1巻

【改心の笑い】5 
 仕返しとして間違いなく何かを盗んだはずなのだが、それがわからない。

【偽物のPH】1
 学位を取るためにしたカンニングの方法。始終監視していたのに。

【実を言えば】2
 横領容疑がかかっている男の疑惑を晴らす。

【行け、小さき書物よ】2
 マッチ箱で一体どうやって暗号を隠したか

【日曜の朝早く】1
 日曜の朝早くにおきた殺人事件を推理

【明白な要素】
 (空白)

【指し示す指】2
 遺産の手がかりを示そうと、指が指した先は本棚で…。

【何国代表】
 (空白)

ブロードウェーの子守唄】5
 アパートに時たま響く謎の金属音の正体

【ヤンキードゥ−ドル都へ行く】3
 尋問中に犯人がなぜか無意識に鼻歌を口ずさむ?

【不思議な省略】3
 不思議の国のアリスにまつわる省略

【死角】1
 盗む事が出来た容疑者は一通りあらったが、だれも一見盗めない。

第2巻

【追われても居ないのに】5
 編集者に原稿を渡し、掲載料を貰ったのにそれが掲載されない理由。

【電光石火】1
 ある取引の受け渡しのタイミングや方法。始終監視していたのに。

【鉄の宝玉】5
 隕石を買い取ろうとしたものの、すぐに諦めて去った男の謎。

【3つの数字】2
 金庫をあける3つの数字はあってるはずなのに、なぜか開かない。

【殺しの噂】3
 殺すという単語をつぶやいた犯罪者予備軍の男を事前にどうにかしたい。

【禁煙】
(空白)

【時候の挨拶】5
 BOXに紛れ込んでいた貰った覚えのないグリーティングカード

【東は東】3
 5つの都市の中で、一番真の東なのはどの都市か

【地球が沈んで宵の明星が輝く】4
 (空白)

【13日金曜日】3
 13日の金曜日に書かれた殺害予告にもとれる仰々しい手紙。その手紙の意図は。

【省略なし】3
アンブリテッド本に隠したと伝え聞いた遺産のありか。

【終局的犯罪】4
モリアーティ教授が書いた論文の内容とは。シャーロックの世界観にのっとる。


第3巻

【ロレーヌの十字架】3
 ある場所の目印はロレーヌの十字架。どこ?

【家庭人】3
 クリスマスとハロウィンが正確に一致するとは一体?

【スポーツ欄】3
 開かれた新聞のスポーツ欄と、5文字のダイイングメッセージ。

【史上第二位】3
 アメリカの大統領選挙における”史上”2位とは?

【欠けているもの】4
 新興宗教の矛盾を突く。火星にまつわるアレコレ

【その翌日】3
 ある編集者と作者の謎の喧嘩別れ。何が原因で?

【見当違い】3
 盗品受け渡し場所を記した暗号の解読

【よくよく見れば】1
 ある諜報員を殺した人物とは。

【かえりみすれば】4
 空想(SF)で構わないので、すばらしい日食写真を撮るには。

【犯行時刻】4
 二人が話す犯行時刻証言の食い違い

【ミドルネーム】3
フェミニストの女性のミドルネーム当て。小学生なら誰でもしってるというヒント。

【不毛なる者へ】3
黒後家蜘蛛の会のメンバー内で、一番”不毛”とはだれを指すか。



第4巻

【6千4百京の組み合わせ】3
 ある男が入力する14文字のパスワードはなにか。

【バーにいた女】5
 (空白)

【運転手】3
 ある運転手が死んでしまった事件

【よきサマリア人】3
 住所と名前が一致するというヒントから、うろ覚えの名前を思い出す。

【ミカドの時代】3
 さる芝居の舞台設定は何年か。その作品の時代考証勝負。

【証明できますか】1
 鞄やらなにやらぬずまれた男が、自分の名前を証明する羽目に。どうやって。

フェニキア金杯】3
 3文字の意味深なアルファベットが示す、隠し場所

【4月の月曜日】3
 (空白)

【獣でもなく人でもなく】4
 思い込みの激しい患者が言う、ケモノでもなく人でもない異星人の母星は。

赤毛】1
 赤毛の彼女がお店に入ると忽然と姿を消した。一体何処に。

【帰ってみれば】1
 泥酔して家に帰ると犯罪現場に遭遇。それは隣近所の誰の家での記憶か。

【飛入り】3
 頭の足りない女性をかどわかした、ある男の名前あて。女性会話の記憶から類推。


第5巻

【同音意義】3
 死の間際の老人の一言。ツーという一言から何をいいたかったのか。

【目のつけどころ】4
 あるきわめて特異な1つの元素はどれか。

【幸運のお守り】1
 確かに盗まれた幸運のお守り。しかし、それは身体検査をしてもみつからず。

【3重の悪魔】3
 希少価値があり非常に高価な本。3重の悪魔というヒントからその1冊を。

【水上の夕映え】3
 住所を見逃した手紙。その文面からアメリカのどこかを探る。

【待てど暮らせど】
 約束の時間に来ないで、忽然と姿を消した男。一体何処にいる?

【ひったくり】5
 盗まれた鞄。後日、鞄以外のすべてが問題なく戻ってくる。はて。

【静かな場所】3
 ある男が冗談めいて名乗った偽名。本名にちなんでいるそうで、本名をあてる。

四葉のクローバー】3
 残された四葉のクローバーの暗号。容疑者の誰を指し示している?

【封筒】5
 手紙を捨て封筒だけ持ち帰った男の行動の理由とは?

【アリバイ】3
 二人一役によるアリバイトリック。それを見破ったのはうかつな証言。

【秘伝】1
 秘伝のレシピがある密室の中から奪われた。



※(空白)に関しては、ネタバレせずに表現が難しいため。空白で処理。


■個人的に好きな話。

第1巻 明白な要素。
ネタバレしない説明が難しいため、内容への言及は避ける。ただ、論理的推理によって、すべての可能性をあたっていきながら、最後にとんちというか、”一捻りして”まとめる点が秀逸。どんでん返しではなく、捩れつつも裏返る展開にあっと言わされること間違いなし。斬新さとその捻り方が一番好き。


第2巻 終局的犯罪
厳密に言うと、これは推理問題ではなく、推論に花を咲かせる類の話。モリアーティ教授が原作内で書いたとある惑星のなんたらに関する論文というキーワードから、世界有数の頭脳を誇るモリアーティ教授なら、書いた論文の内容は一体なんだったろうかと推論するのである。陳腐な内容だとモリアーティ教授が書いたとはいえないし。実際の科学論文の発表年度と照らし合わせて、当時それを発見できたのか?と現実の歴史からもアプローチしていく。謎が多い漫画やアニメのの検証・考察サイトで面白い見解を見た時の面白さ。ただ、実際の科学論文と参照するところに説得力がある。